2009年に出版されたAndre Agassiの自伝「OPEN」。CD版を図書館で借りて往復2時間の通勤中に聴いていた。ぐんぐん引き込まれる内容で車の中だけでは物足りず、あっという間に15枚のCDを聴き終えていた。読み手が舞台俳優で人物の声音もうまく使い分けていて、物語がカラフルに展開して行った。
2006年の引退試合では腰にコルチゾンを打ちながら奮闘。現役アスリートとして何を考えていたのか手に取るようにわかる書き出しでぐっと引き込まれる。それから幼少時代。兄一人姉二人、末っ子として生まれたアガシは選択の余地なくテニスチャンピオンへの道を歩まされる。父はイランから移住した元オリンピックのボクシング選手。テニスに情熱を注ぎ子供全てにテニスを仕込んだ。途中からその情熱はアガシに集中。友人から家族からも引き離されてテニス寄宿舎に送られる。孤独なテニスよりチームスポーツがやりたかった少年時代。様々な苦悩や孤独を小さいながらに感じていた模様に胸を打たれる。しかし成長しても自分にはテニス以外にない。高校も途中で通信教育に切り替え、母が試験や宿題を変わってくれたため卒業できた。テニスは大嫌い、でも自分にはそれしかない。
トレイナーGil Reynsとの出会い。運命の出会いとも言える。Gilは父親の代わりでもあり親友でもあり何よりも人を「育てる」ことの出来る人だったと思う。今はAdidasの養成プログラムを監修しているが彼のインタビューを観た。そこからは溢れる謙遜と優しく育むまなざしが感じられた。
16歳でプロに転向して20年第一線で活躍。突飛な服装や髪型も自分を隠すため。"Image is Everything"というキャノンのキャッチフレーズでからかわれ、スキンヘッドにする前はあのハードスポーツで鬘までつけていたそうだ。世界ランキング一位から141位にまで落ちて又一から出直し世界一位に。その後4大大会制覇を果たした数少ないトッププレーヤーの一人となり、今はラスベガスの恵まれない子供たちために学校を運営している。
トーナメントを渡り歩く旅ガラスの生活、体の故障などアスリートにつきもののドラマの他、幼い頃の葛藤、結婚の失敗、薬物の使用、そして長年憧れていたSteffi Graffとの幸せな生活に至るまで、驚くべき記憶力で鮮やかに、ストレートに、時に皮肉を交えて語っている。読み物として楽しめたのはもちろん、自分から全てを奪ったと思っていたテニスから実は多くの物を得て学んでいたこと、それに気付き感謝している彼の姿勢に感銘を受けた。プロとしてのキャリアを積んでしばらく経ち、能力に限界を感じ破れた試合を重ねてからテニスをやることを初めて積極的に「選んだ」と語っている。「選ぶ」ことさえできれば先が見えない道も開けるというかのように。
引退試合から語られた物語は、「始まり」と題された終章に行き着き、妻グラフとの貸しコートでのラリーの場面で終わる。自宅にテニスコートがないテニス殿堂入りアスリートカップル。一つの道を極め今は家庭を一番にそれぞれのチャリティに力を注いでいる二人はお互いへの尊敬の念に満ちて輝いている。BBCのインタビューを観て心からそう思った。
名前もプレーも知っていたけれど、アガシがそんな幼少時代を過ごしていたなんて・・・。
返信削除Imakokoさんに薦められ図書館で借りてきました。お気に入り作家の小説を読むように本を置くことができない。何十年も前に起きたゲームでの心境をさっき起きたかのように憶えている。読んでいるとまるでそのゲームを観ているかのようにおもわせる。文才ありますねぇ。まだ最後まで読んでいないけれど、最初が「終結」で最後が「始まり」になるのもおもしろい。
返信削除Imakokoさんの感想文にA+!
Chaco、そうなの。かなり彼は冷静に昔のことを覚えています。7歳から年間百万球を打ち込んでいた彼。その道一筋で犠牲にしたものも多かったけれど、すごい人です。
返信削除えみこさん、特にテニスプレーヤーだったえみこさんだから描写に引き込まれるでしょう?彼がthinkerでobserverであったおかげでよい作品に触れることができました。ハイグレードありがとう!感想文っていうか簡単な紹介だけだけど、えみこさんの感想も教えてね。
妊娠テスト診断のブルーの表示に「男の子?」と答えたのに大笑い、ギルに息子の名前のミドルネームを彼の名前にしたという場面では涙がとまらず、ステフィに「僕はテニスが嫌いだ」と告白したとき彼女が「皆そうじゃない?」と初めて同意してくれた人にめぐり会えた場面に感動。彼の感情のローラーコースターに便乗しているようです。
返信削除そう、笑いあり、涙あり、一緒に悔しくなったり心が温かくなったりするよね。言葉だけでない深いコミュニケーションを共有している二人は本当のソウルメイトなんだと感じます。
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