2010年6月17日木曜日

リチャード オバリー氏講演会

エルザ自然保護の会主催のリチャード オバリー氏講演会に行きました。オバリー氏はイルカ保護活動家で、今年アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したザ  コーヴに出演しています。日本でも最近相次ぐ映画館の自主規制で上映中止になり、マスコミでも取り上げられています。

米フロリダ出身のオバリー氏は、60年代は水族館に勤めイルカを捕獲し、米人気テレビ番組「わんぱくフリッパー」に出演するイルカの調教師でした。フリッパーの人気とともにイルカ関連産業が拡大。その後一転してEarth Island Instituteにて捕獲されたイルカの解放活動に取り組んでいます。そのきっかけは、イルカが自分の腕の中で呼吸を止めて自ら命を絶ったからだそうです。イルカは意識的に呼吸をしますが捕獲環境でうつ状態が長かったそのイルカは、彼の目を見つめ腕の中で息を止め、プールに沈んでいったそうです。その翌日、彼は勤務する水族館のイルカを海に放し逮捕され、活動家に転じて今に至ります。

アメリカで昨年夏に公開された作品を私は数ヶ月前にDVDで観ました。 上映中止を求める市民団体は、肖像権の侵害、事実無根の中傷(イルカ漁従事者をジャパニーズマフィアと呼んだというクレーム:クルーが撮影中誰かに行動を監視されていてそれが誰かわからずジャパニーズマフィアなのか?と監督のホシヨス氏が一言発言した場面あり。しかし、これは特定のグループを指した発言ではないので誤解ととることができる) 、日本伝統文化への侮蔑などを理由に、この映画をジャパンバッシングの猛毒映画と主張しています。

イベント会場の前では、抗議団体が声高に作品の違法性を訴え、誰を相手にか一時つかみ合いになる場面もあり、警備もかなり厳重でした。
 
4時からイルカに関する映像の上映から始まりました。9日に行われたシンポジウムでもパネリストとして参加、静岡県富戸のイルカ猟(エルザ自然保護の会では漁でなく猟と表記)の撮影で有名なイルカ保護家で映像ジャーナリストの坂野正人氏の紹介でいくつかの作品を観ました。イルカによって鬱状態から回復した人々や自閉症の子供たち。野生動物ながら、ビーチで人間によってくるイルカたち。また太地町のオルカ(シャチ)猟に関する映像もありました。

ところで、イルカは何語?と一緒に行ったMさんと首をかしげました。語源は不明でいくつか説があるそうですが、その一つはイルカ猟をやると大量に血が流れることからチノカ(血臭か)が転じたという説もあるとか。映画のワンシーンとイメージが重なります。

「イルカは知性が高く野生動物で唯一人間を助ける動物で、家畜ではない」とは、「イルカはなぜ保護されなければならないの?他の生物は?」という質問に対してのオバリー氏の答えです。しかしイルカ猟中止を呼びかけることは動物保護だけでなく、人権保護の問題に拡大していると指摘します。それはイルカ肉に含まれる水銀、PCB、メチル水銀の高さが人体に有害なレベルに達しているからです。数値を巡って見解の差はあるようですが、それらを含むこと自体は水産庁も認めています。ほ乳類を水産庁が管理すること自体矛盾といえば矛盾という指摘もあります。そしてイベントでは触れられませんでしたが、映画ではイルカ肉が鯨肉と表示され売られているともありました。イルカ猟が行われる理由は肉を食用とすること、世界の水族館や遊技場に出荷するためで、現在日本ではイルカ捕獲は合法です。しかし、そのようなビジネスが存在すること自体知らない日本人が多いなか、ザ コーヴをただ単に日本に伝統を脅かす暴力映画と決めつけるのは短絡的といえるのではないでしょうか。 少なくとも私自身はこの映画で多くの隠された事実を知り、考えさせられました。

表現する権利とともに、抗議する権利も存在する。通常自分は抗議する列があれば何であれそれに加わるのだが、日本では立場が逆、と話す オバリー氏。実際に猟にたずさわる若い漁師に9月から3月までイルカ猟ができなくなったら生計を立てるのに困るか?と聞いたところ、伊勢エビ漁などに切り替えるので別段打撃ではないとの答えを得たようです。もちろん他の意見もあるでしょう。映画であれ何であれ、優れた作品は視点や論点がしっかり定まったものであり、それはあくまで作り手側のものであるのは事実です。

「いま我々にできることは?」という質問に対し、同氏は「イルカ肉は食用、肥料、ペットフードに使われているが水銀やPCBを含み有毒だということを啓蒙すること。有毒製品が市場に流通し続けるというのは人権侵害と同じ。イルカのいる施設に行かないなど、食と娯楽の両方からイルカへの需要を減らすことが商取引廃止へつながる。野生動物と人類間のスペースを尊重し、尊敬に基づいた関係を築いていくこと」と答えていました。Driven by Demand. 有毒性が明らかになってもイルカ肉市場が存続するとしたら別ですが、今は十分な情報開示がないまま閉ざされた産業としてある。この部分に消費者は憤りを感じていいのではないでしょうか。また海外に住む日本人として、日本政府の見解や信頼できる科学的データを自分なりに理解したいと強く思います。
現在日本には、イルカがいる水族館が50あるそうです。それらはイルカを含む海洋生物への理解を深める目的で必要な教育施設だというのが建設側の主張です。しかしそれらの施設のイルカは捕獲環境で早死にして次々と新しいイルカに変わっていることを観客は知っているでしょうか。超音波でコミュニケーションをとり、群れで一日数十キロを泳ぐのが野生のイルカです。生け簀やタンクの中のイルカに教育的価値はあるのでしょうか。建設中の東京スカイツリーにも水族館ができる予定ですし、京都市は市民の7割が反対する中、イルカを目玉とした国内最大級の内陸型水族館の建設を決めたそうです。

イルカ猟だけに限らず、今、人間と自然の関係のあり方が新たに問われている気がします。

5 件のコメント:

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  2. いまここさん、ごめんなさい。私のPCがおかしいのか?コメントを投稿したら、一回目は投稿したと出てきたのに表示されず、同じようなコメントをまた投稿したら、今度は2つ表示されてしまい、そんな訳でとりあえず両方とも削除しました。
    コメントしたかったのは、腱鞘炎は大丈夫ですか?と言う事と“人間と自然の関係のあり方が新たに問われている気がします”に私も全く同感です、と言うことでした。
    なんかゴチャゴチャしてしまって申し訳ありません。

    日本でもお忙しそうですが、どうぞお体大事になさって下さい。

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  3. mikkoさん、ありがとうございます。
    オリジナルのコメントもありがたく拝見しました。私は個人的に肉を食べませんが、鯨やイルカ肉の味が好きで食べてきた人は複雑だと思います。そしてイルカ猟だけでなく、人間は自然に対して残酷ともいえる行動をずっととってきました。だからこの問題は、イルカは利口だから保護するべき=追い込み猟は禁止、という単純なものではないと考えます。
    腱鞘炎はをだましながら休み休み書きました。読んでくれる方へのきっかけとして当日のQ&Aをすべてご紹介したいのですができずに残念です。
    これからも治療に専念して、ブログフル復活を目指します!

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  4. imakokoさん、報告をありがとう!とても興味深く読ませていただきました。私もお2人に同感です。今年に入ってからイルカ、クロマグロ、サメ、と海洋資源について私もいろいろと述べてきましたが、日本人は今まで恩恵を受けてきた海に対して恩返しをするべき時なのではないかと思います。もう「資源があるうちに使える限り使う」という時代ではないのです。

    今後の動きがとても気になりますね。ところで、このポストを私のブログにリンクさせていただきます。時間がある時にもっとコメントも書かせてもらいますね。

    今空港です。あとちょっとで私も日本に向けて出発です。腱鞘炎、お大事に。

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  5. Cさん、気をつけてよい旅を!
    私も再度リンクさせてください。

    消費側は、今まで通り「もの」が市場にある限り、不足しているとか、このままでは将来どうなるということに思いが及ばないのでは。以前の自分もそうでした。特に日本では「今までこうだったから」という理由が意思決定する上で重要な要素になっている。行政もそうだし企業でも前例を変えるには根回しが必要だったり。前例や伝統を重んじたり、事前にコンセンサスをつくるのは悪いことではありません。でも、変化する状況を見つめて下す判断は、前例や伝統を変えなければならないこともある。その的確な判断と変わる勇気が今、日本に限らず求められている気がします。

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