2014年7月26日土曜日

活字と音

先日、用事で母が入院していた病院に出向きました。外来の診察時間をかなりすぎた昼下がりは、がらんとしていて、歩き慣れた渡り廊下を進むと景色がゆがんで見えました。母が私を出産し、45年間無欠勤で働き、人生最期の 33日間過ごした大学病院。母がいた日々とその後ではいろんなことがゆらゆらとする。まあそんなものなんでしょうね。

用事を済ませ、お気に入りパン屋さんでその日最後の一個となったあんパンとその他数種類のパンを仕入れて帰り道、ふと図書館の建物が目に入りました。

何気なく入った建物は静かで、明るいけれどいい感じにひんやりしていて、懐かしい本のにおいがやさしく香ってきました。夏休みだから日焼けした子ども達もいるけれど、みんな静かに思い思いに本を開いたり、ヘッドホンを耳に当てていたり。

ポッドキャストで日本の対談番組を聴くのが好きで、その都度読みたい本をメモしていました。そのメモは持っていなかったけれど、すぐに思いついた二冊を探したら、難なく見つかりました。その他にも地元 (CA) の図書館で借りそびれていた二冊の翻訳本も見つかり、今日図書館にきた自分よ、でかした!
他に世界の楽器カタログという二枚組のCD3巻も借りてみました。世界の楽器90種類の音色で奏でられる音楽が収録されているそれは、眠れない夜に聞くと想像力の扉が開きます。

さっき読み終わった本は「生かされて。」原題はLeft to Tell. 1994年のルワンダ大虐殺を生き延びた女性の手記です。3ヶ月に渡り狭いトイレに7人の女性と隠れている間に家族を国外にいた一人を除いて全員殺された彼女。それでも信仰の力で敵を許すことにしたその愛と勇気は、私の想像力を遙かに超えます。許しと慈悲。この二つを身につけてこの世を去ることはできるのか。望んで努力して心から信じればかなえられないことはないと著者は唱え、生き証人である彼女が言う真理は力強さに満ちあふれています。このニュースをロンドンで聞いた時の衝撃が私の中に強く蘇りました。人間の果てしない可能性。両極端の可能性をこの本は事実に基づいて今一度考えさせてくれます。

土曜日にも関わらず立て続けに届く簡易書留。どれも母がこの世にもういないという証明書類を求めるものです。読み終わったばかりの彼女の経験がまだ脈打っていて、それに対して天寿を全うしたといっても過言ではない我が母。なのに小石はまだ詰まったままで手と頭は動かず。

それでも活字と音で触れる世界は、このところ捕らわれていたバイナリーな見方(母生前・死後)から少しずつ私を自由にしてくれています。

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