2011年8月1日月曜日

日常という名のドラマ

日本のドラマや映画は世界に誇れる文化だと思います。インターネットを通せば世界中のファンがボランティアで英語の字幕をつけたものを観ることができます。そのサイトを見つけてきたのはDannyで日本語の勉強と称して時々一緒に観ています。内容もさることながら、作品にはその時々のトレンドが取り入れられているから、昔の作品は懐かしく、今はこんな言い回しなのか、などと生きた言語に触れるいい機会でもあります。

どの作品も原作、脚本、キャスト、製作など多くの人たちの力で作られますが、その中でも脚本の影響力は作品のインパクトに直結します。原作が力作であればそれだけプレッシャーが大きいし、漫画のような媒体の映画化ではまた違う苦労があるでしょう。

そんな世界で活躍している篠崎絵里子は私の姪です。一番上の姉の娘である彼女は、保険会社勤務を経て脚本家になりました。昔から読書が大好きで家にはすごい数の本があります。一つ年上のお兄さんとたくさん本を読んでいました。夏休みはよくもう一人の姉の家で他のいとこ(私にとっては甥っ子)たちと一緒に宿題をしました。アニメちびまる子ちゃんの脚本を書いたり、映画「クロサギ」や「あしたのジョー」も手がけました。「あしたのジョー」は本人も大ファンだった漫画だったそう。ドラマ「クロサギ」ではヒッチコックさながらのカメオ出演もあり観ている側が驚かされました。

2009年には『日本人の心や人の触れ合いを取り上げ、放送文化に大きく貢献した番組や人物に贈られる』橋田賞を受賞。手前味噌ですけど、思いっきり褒めちゃう!すごい活躍です。日曜劇場といったゴールデン枠を手がけたり、嵐の松本くんが出ていた2年前の話題ドラマ「スマイル」も第10話と第11話(最終回)は彼女の脚本です。

小説の「転がるマルモ」も軽快な関西弁で笑いあり、涙ありの話です。

その彼女が今年のお正月に取り組んでいたというドラマの放映が始まりました。故向田邦子氏の自伝色が濃いといわれる「胡桃の部屋」です。原作は40ページ足らずの短編ですがドラマは全6話。世界観は壊さずに書いて、最終回は原作が終わっているところから続けて、彼女なりの結末をつけてみたそうです。

小説の他に脚本も多く残した向田氏のドラマの数々。1979年にNHKで放映された「阿修羅のごとく」には子供ながらに衝撃を受けました。向田氏が飛行機事故で亡くなられてから30年。妹さんの向田和子氏と篠崎絵里子の対談もぜひ読んでみて下さい。父親役の蟹江敬三氏は会見で彼女の脚本を「人物ひとりひとりをふくらまして下さって、原作を上回るくらい面白い」と発言したと編集部のブログにありました。すごい!

下記は和子氏との対談からの抜粋です。

――篠崎さんが脚本を書いていて一番難しかったことは?
篠崎:
...難しくなかったことの方が少ないくらいなんですけど(笑)
(胡桃の部屋に限らず)向田さんの作品の多くはどのシーンも日常なんですよね。日常のくせにすごくドラマチックなんです。家族のさりげない時間、ミカンをむきながらだとか、手作業をしながら話している内容ひとつとってみても、普通のドラマなら密室で真剣に向かい合って話すことを、茶の間で話している。そういう部分が一番の魅力だと思います。


これは私が常々向田作品に対して感じていたこと。日常にあってもいいのだろうか?というようなドラマがそこここにちりばめられていて、表面上は特に取り乱すこともない主人公が抱えている内側の葛藤と修羅場。そんなアンバランスでありながら臨場感たっぷりの作品を読んで感じたことや考えたことは色あせることなく残っています。

日常をここまで印象づける魅力とは何だろうと漠然と考えていたことに彼女が答えをくれました。

目線がすごく優しいですよね、辛辣なことを書いているのに、根本のところで全部許している。
(向田邦子さんは)どんな登場人物も、本当にいとおしく思って書いているのがとてもよく分かるんです。



これか!と膝を打ちました。どんな登場人物にもお仕着せのキャラクターを演じさせるだけでない深さがあって、読み手も登場人物が作り出す環境(物語)を自然に丸ごと受け入れている。それは彼女のいう慈悲に満ちた許しが根本にあるからだと合点がいきました。


「胡桃の部屋」の主演は松下奈緒氏。彼女と和子氏と松下氏は三人揃って向田氏のお墓参りに行ったそうです。それを読んで日本ならではだと感銘を受けました。


今日(日本時間火曜日午後10時)は第二回目の放映です。みなさま、ぜひ観てみてください。それから日テレの24時間テレビ中のドラマ『生きてるだけでなんくるないさ』も彼女の作品だそうです。放送日は8月20日午後9時頃から。こちらもよろしくお願いしま〜す。次はまた映画を手がけるとのこと。忙しい毎日で昼夜逆転の生活になりがちだと思うけど、益々の活躍を心より応援しています。がんばれ、絵里ちゃん!

1 件のコメント:

  1. Chaco2011年8月22日 7:56

    24時間のドラマは22%と高視聴率、歴代何位かに入ったと聞きましたよ。
    知人達に連絡してみてもらいました。感想をよせてくれうれしかったです。病気のドラマは苦手だけど今回は、向き合ってみれた友人もいました。

    中学からの友人で小児がんだったから20歳まで生きられないと宣告された子がいました。嬉しいことに彼女は病気と向き合いながら今もがんばっています。

    色んな人に支えられながらも乗り越えられる人ばかりでもありません。でもそれだけが病気に勝った、負けたと分けるのは好きではありません。この世と別れなければならなかった多くの仲間達も必死に生きた証があります。いいドラマをありがとうと。彼女から連絡をもらい思わず熱いものがこみあげてきました。

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