2012年2月24日金曜日

今日が人生最後の一日だったら?

きっと誰しもが素直になれるでしょう。家族と過ごしたい、お世話になった人に感謝の意を伝えたい、ずっとやってみたかった事に挑戦したいなどなど、人それぞれでしょうけれど。

今日が最後かも知れない可能性は誰にでもあるのに、普段は忘れてしまっています。そんなことを改めて思い出させてくれる映画 "A Single Man" を観ました。2009年公開。たまたまDが宅配DVDサービスサイトのおすすめからリストに加えた作品。久しぶりにずん、と響きました。

**ここからあらすじを書くので、これから観たい方は飛ばしてください**



60年代。同性愛者の大学教授は最愛のパートナーを突然の事故で亡くします。もちろん同性愛者だということは社会には隠して生きていました。パートナーの死と共に生き甲斐をも失い、哀しみに暮れ、なんとか生活を保って来たものの疲れ果て自らの命を絶つ決心をします。全てにおいてきちんとしている彼は、家を片付け、通いのメイドにお礼を言い(いつもは横柄な主人だった事がメイドの表情から伺えます)、大学では普段話さないような秘書に注意を払い、大学のオフィスを片付け、最後の授業ではいつもより心がこもった講義をする。「最後」だと決心した事が、彼の日常に対する態度を180度変えていました。銀行でお金を引き出し、お世話になった人々に封筒を用意し、貸金庫から重要書類を引き出し(その中には恋人の写真もありました)、自分の死装束のネクタイの結び方までメモを残す選ぶ几帳面さ。その間も見知らぬ人との出会いや会話、昔なじみの友人とのあけすけな会話、そして大学の生徒の訪問。。。まるで生きるのをやめたとたんに、「人生って、こんなにいろいろあるんだよ!」とメッセージが後を絶たなくなったような彼の一日。

でも決心は揺らぎません。拳銃を手に持ち、何度も試みようとするも、几帳面な性格が純白のシーツや枕を汚す事を許さない模様。この辺りはちょっとコメディ入ります。結局キャンプ用の茶色の寝袋を敷いて事に挑もうとするも、アル中の友人から電話が入り、約束したウォッカを届けていない事を思い出します。そして彼女の家に行き、最後の晩餐。そこで今まで言えなかった心の詰まりを溶くようなあけすけな会話のキャッチボール。彼女が「今週末なにするの?」と聞いた時の彼の答えは「ずっと静かにしているよ」というものでした。自分が物言わない物体となるのを楽しみにしてるかのように。

そのあとも彼の夜は盛りだくさんです。結局最後には拳銃を引き出しに仕舞い、鍵をかけ、生き続ける決心をします。しかしその直後、彼の心臓は痛みに襲われ、打つのをやめてしまいます。

結局、全てが、起こるべきして起こったのだ(自分が手を下さなくとも)。。。と薄れゆく意識の中で理解する彼。その朦朧とした視界には、迎えに来た愛する恋人が映し出されていました。

観終わったあと、二人とも「久々のヒットだったね。。。」と感慨深い思いでした。

今日改めてお互いの感想を話し合ったら、ちょっと見解が違いました。私には、彼が「今日が最後」と決めた事で、殻を脱いで、不器用ながらも素直に優しくなれたこと=「今日が最後」と思えれば、いつでも誰でも素直に本来の自分でいられる、というメッセージが一番強く残りました。Dは、やっと彼が「人生は生きる価値のあるものだ」と思い至った所で終わりに来てしまったアイロニーを一番強く感じていました。面白かったのは、私が彼がメイドや秘書に褒め言葉を残した事を言うと、「あ、そういえばそうだね、でもそれが格別ナイスな事とは思わなかったよ。でも今言われると、確かにメイドはいぶかしげな顔をしていたよね」と。

彼にとっては人にお礼を言うことや、笑いかけることはあたりまえなのです。確かに彼は、夜道で見知らぬ人とすれ違っても挨拶するし、ホームレスの人が物乞いをして来ても丁寧に対応します。いつもすごいなあ、と思う自分。それを「すごい」と思っているうちは、彼と同じレベルではないのでしょう。

監督のTom Fordの映像、オリジナルサウンドトラックも素晴らしい作品です。そして主役のColin Firth。彼の演技は言葉にできないほどです。

2 件のコメント:

  1. タイムリーなブログです。Imakokoさんも会ったことのあるJさんのお葬式にコネチカットにきています。彼に「もし最後の日だとわかっていたら?」と聞いたら「God damn, I don't care!がははー」と言っていたとおもいます。身近の死を見ることによって自分の死を考える。逝った人からのプレゼント。Jさんと友達でいれたことと同じくらい彼がこの世を去ったことがどれだけ私を形作ったことかを感じています。RIP,Jさん。

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  2. Jさんの豪快な笑顔、よく覚えています。突然すぎる旅立ちは周りの人にいろいろな感情を巻き起こしたかもしれません。でも確かに、彼は最後まで、何者でもなく、彼自身でいましたよね。そしてえみこさんにかけがえのないプレゼントを残してくれた。私もJさんのご冥福を心からお祈りしています。

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